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The Star この星

あたりまえの物語



林原めぐみが自分で撮ったフォトと掌編を組み合わせた本。四編の短い物語が収録されている。あとがきによればそれは「フィクションだったり、ノンフィクションだったり、夢だったり、過去にも書いたことのリメイクだったり……。私が私として生きるうえで、どこかしら支えであり、基盤であり、みちしるべのような言葉、空気、感覚をつづった」ものである。読後不思議な感覚包まれる本。

まずは、明日しっかり働こう
音楽のことも、もう一度ちゃんと考えよう
それは悩むという角度より
15度ほど上向きな気がする……


この星
林原 めぐみ
KTC中央出版 2002-04-02


by G-Tools

人間誰にだって物語があるという。

このときの『物語』とはなんだろう。
ハリウッド映画並の弾丸、爆発、アクション連続の物語だろうか。
ロミオとジュリエットのようなとんでもなく深刻な愛物語だろうか。
そんな大げさな物語を『誰だって』もっているだろうか。


毎日決まった時間に起き、毎日決まった場所に行き、毎日決まった仕事をし、毎日決まった店で酒を飲む。
そんなでこぼこがない人生を死ぬまで続ける人もいる。
そんな平坦な人生に物語はあるのだろうか。
おそらく、その平坦な人生を送ること自体が物語なのだろう。

人があたりまえに生きる、ということ自体がすごいことなのだ。
もちろん生きている本人は、それが『すごい』ことなんていう自覚はないのだけれど。
でも、人というのはふと気付くことがある。『自分があたりまえに生きている』ということを。
きっとそんなとき、平凡な人生が物語になるのだろう。


この本に書かれていることは、『自分があたりまえに生きていることのすごさ』を気付いた瞬間の物語なのだろう。

誰でも出会うかもしれない風景がこの本にはある。
年老いた父と母をひどい渋滞の中送る最中、父が呟いた一言。
生き方も考えも違うけれども、それでもなぜか気の合う友の一言。
それぞれのきっかけから人はそれぞれいろんなことを考える。
自分の父と母の人生を思い、そしてその人生を受け継いでいる己。
友人の悩みにシンクロし、ふがいない自分を振り返る。また別の友人の一言から、後悔の念から抜け出しひとつの決意を持つ。

己が誰かがわかったところで現実が大きく変わるわけではない。ひとつの決意を固めたからといって、なにかが劇的に変わるわけではない。ただあたりまえの日常が待っているだけだ。
ただなにかに気付くことで、今までのあたりまえの日常とは違ってくるのだと思う。
漫然とあたりまえの日常を送るだけと、自覚的にあたりまえの日常を送るのは違うはず。

爆発も大アクションも大恋愛もないけれど、自分が生きる場所はこの『あたりまえの日常』なのだ。
そしてそのことに気付くことが『物語』だ。
自分には物語がある、そう思うことが人の幸せにつながるのだと、私は信じたい。
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