ゆうきまさみは健全なマンガ家だなあ、と思ったことがある。
あれはとり・みき【
マンガ家のひみつ
】にてだと記憶しているが、ヒット作パトレイバーで悪役内海課長に人気が出てしまい、このままではまずいと思い、最後にはこいつらは人殺しをしたりされたりする悪いやつらなんだというシーンを入れた、と語っていた。
正直読んで意外だった。
マンガ家という人種はもっと反社会的で、内海みたいな悪役こそを愛しているという見方をしていたのだが、悪役は悪役であり、人気が出すぎてまずいと思ったというゆうきまさみの健全さは、私のマンガ家観を変えるものだった。
たしかにゆうきまさみは健全な作家だ。
ゆうきまさみ作品のヒロインはショートカットだ。(
バーディー
はロングだけどね)
泉野明、
大戸島さんご、
度会ひびき等々。初期作品きまぐれサイキック(
となりの異邦人
収録)にもショートカットの西門ちからという女の子を登場させているが、その理由を
当時の少年まんがのヒロインにはあんまりいませんでしたから、どこかで登場させたかったからと書いている。
少年マンガのヒロインにロングの女の子が多いのは、もちろん少年マンガの主な読者が男の子だからで、理想の女の子という幻想を受けてのことだ。
ま、昔からのつっこみだが、少年マンガに出てくるヒロインなんて男に都合のいい妄想だ、というのは事実である。
女の子だってボーイッシュな子は当然いるし、男だってショートの方が好きってやつもいるし。
だけど、当時は少年マンガのヒロインはロングってのが一般的だったと思う。一般的というより、そういう型ができていたのだろう。
そういうところに対してショートヘアの女の子を出してみたいというゆうきまさみの考え方はすこぶる健全なのだ。
こういう健全さは、私にはこれっぽっちもないもので、だからいつも新鮮に感じ、ゆうき作品を読むのは楽しい。
和月伸宏の【武装錬金】にも、そういう健全さを感じたから、好きなのだ。
まず、ヒロインの顔に大きな傷がある。(
もし斗貴子さんの顔に傷跡がなかったら?)
ふつうは少年誌的に×だろ、その設定は。
でも見事だ。そりゃ歴戦の戦士なら傷くらいあろう。顔に傷があってもおかしくない。昔と違って戦うヒロインが非常に多いのだ。ヒロインも戦うとなれば、傷のひとつやふたつあっても当然というのは想定の範囲内だ。
でも、今までの少年マンガヒロインはあんな目立つところに傷をもっていない。あったとしてもヒロインの顔というパーツを崩さない程度の傷だ。
それを和月は、どーんと崩した。感動したっ。
あと、登場人物たちの奇抜なかっこうを周りのモブがちゃんと気味悪がっているのも良。

(変な人々)

まあ、登場人物たちの変なかっこうを、物語の中で変なかっこうといって笑わせるのは、よく使われる楽屋オチ手法だが、和月の使い方は楽屋オチに堕ちず、バランスがとれてた笑いだった。・・・と思う。
ここら辺うまくはいえないのだが。【武装錬金】はとにかく作者が考えて考えて、誠実に読者に向かっている作品だと、感じてしまうのだよ。
秘密基地の暗号だって、編集さんには怒られたらしいが、あれはあれでいいのだ。たしかに子どもには意味はわからないかもしれない。でも、少し知的な子どもなら、意味がわからないなりにでも、おもしろいもの、優れているものに食いついていくのだ。
けっして【武装錬金】はマニア向けだけでなく、子どもに対しても向かっていた作品だ。私の評価でいえば【るろうに剣心】よりよっぽど良い作品だ。
ジャンプシステムという過去の遺産だけではなくて、マンガ家が全身全霊で作っている作品に対しては、それなりに評価できないのだろうか。
無念だ。
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