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高校野球が危ない!

高校野球が危ない!高校野球が危ない!
(2007/07/31)
小林 信也

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第89回全国高校野球選手権大会は佐賀北の劇的な逆転勝利で幕を閉じた。
県立高校が優勝したことを喜ぶ高校野球関係者は多いのではないか。西武ライオンズの裏金問題から発展した特待生問題があったためだ。
甲子園常連私立校では当たり前に行われていた特待生制度が日本学生野球憲章に違反しているとして一時話題になった。この特待生制度は、隠されていた問題でも誰も気づかなかった問題でもない。誰もが野球憲章に違反していることは知っていたし、裏ではどぎついことをやっているところがあることも周知の事実だろう。

「特待制度」高校よりも中学に問題が…

問題になったとき良く言われたのが、他のスポーツでは当たり前に行われていることだ。なぜ野球ではいけないのか、ということだった。もちろん同じくらい高校野球の精神を汚すけしからん行為だという声もあったが。
メジャーなスポーツで活躍すれば学校の知名度があがり、校内の雰囲気も盛り上がる。優秀な選手であれば金がかかっても獲得したいという高校・大学は多いし、選手の方も恵まれた環境と金銭的負担の軽減を得られる利点がある。ただ、高校野球ではダメなのだ。野球と引き替えに金銭的援助をすることは野球憲章ではっきりと禁止されていた。(ちなみにこの憲章は高野連に加入しているところのみに影響があるので、高校とは関係ない大学では援助は問題なく行われている)

だが、高校スポーツで何がメジャーなスポーツかといえば高校野球以上のものはないだろう。甲子園となれば毎試合テレビで全国放送される。全国紙がかなりの紙面をさいて特集する。そんな高校スポーツが他にあるだろうか。学校の知名度をあげようとする高校が野球に力を入れるのも当然だろう。高校は甲子園で知名度をあげることができて満足、選手は生活の不安なく野球に打ち込めて満足。表面上誰も損をしていないので、特待生の何が悪いの?という意見がでるのも当然だろう。事が大事になった後、特待生問題に厳しく対応すると言明する高野連に、対応が杓子定規すぎる、時代に合わせた体制をという反感はかなりあった。

本書は、特待生問題を主に現在の高校野球の現状を書いたものである。草思社の本らしく編集がぐだぐだ(というか編集作業を放棄している)なので内容も意見も一貫性がなくまとめるのが困難なのであるが、総体としては世間の悪評から高野連を弁護する意見が多い。

そこにあるのは、高校野球のあるべき姿として、アマチュアリズムこそが正しいという主張がある。それゆえ、冒頭で昨年の甲子園でヒーローとなった斎藤佑樹投手がいた早稲田実業への批判から始まっている。相手投手のリズムを狂わせる効果があるのかもしれないが、変則的な打法が多くて、そのままでは大成しそうにないのだがきちんと指導する者はいないのか。通常ではありえないラフプレーをしていながら悪びれない選手、それを許容しているかに見える監督。斎藤投手に対しても、優勝後の宿舎でワイドショーのインタビュー時にある商品ロゴが入ったTシャツを着たまま出演し、高校球児としては軽率な行為ではなかろうかと疑問を呈し、「コントロールがいい」と思われている斎藤投手は実は死球が多く、ぶつけても謝りもしない。打者からすれば、いつぶつけられるかわからない投手はさぞ打ちにくいだろう。早実は「とにかく勝てばいい」の姿勢で高校野球をやっているのではないか。そのようなチームがマスコミに大きく取り上げられ、人気者になっている現状に危機感を著者は感じているのだろう。

著者や昔ながらの高校野球に愛着を感じる人は、アマチュアリズムこそが高校野球のあるべき姿なのだろうが、無理筋な話ではないだろうか。
著者は、高野連を悪い点を挙げながらも、アマチュアリズムの守護者としての高野連を最大限評価しているが、マスコミ等の「外部」に高野連が高校野球の守護者として居丈高に振る舞えるのは、ひとえに人気コンテンツである甲子園を抱えているからだ。他のアマチュアスポーツなら毎回頭を悩ませる大会運営費を会場収入でカバーできる高校野球。人気コンテンツを抱えるからこその高野連であるが、人気コンテンツであるがゆえに選手や関係者は実入りを期待するし、勝てば官軍と思う者が出るのも当然だろう。
アマチュアリズムの理想に適った高校野球は、人気コンテンツとして有り続けられるのだろうか。すでに子どもたちにとっては野球よりもサッカーの方が親しいスポーツだろう。そしてサッカーは、子ども自体からプロががっしりと介入し、学校が優先的援助を行っても何ら問題がない体制だ。

現場の生の声や自身が実際に見た試合からの評論など興味深い情報が多い有意義な本なのであるが、では今後の高校野球はどうすればいいのか、については有効な答えはわからなかった。それは本書で豊富に載っている現場からの声を参考にして読者が考えるべき問題、ということなのかもしれない。


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