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マネー・ボール

経営としてのプロ野球



メジャーリーグのアスレチックスのことを書いた本。メジャー通は当然ご承知だとは思うが、アスレチックスは変わったチームだ。まず、資金力が乏しい。プレーオフの常連ヤンキースとは比べものにならない。しかし、アスレチックスはそのプレーオフの常連なのだ。なぜ少ない投資で、多大な投資をしたヤンキースと同じ結果が出せるのか。そのことをアスレチックスのGMビリー・ビーンを中心にして解き明かす。野球を科学的に解明したい人必見の本。

あなたは4000万ドル持っていて、野球選手を25人雇おうとしています。一方、あなたの敵は、すでに1億2600万ドル投資して25人の選手を雇ってあり、あとさらに1億ドルのゆとりを残しています。さて、あなたがこの敵と戦って、みっともない負けかたをせずにに済ますためには、手元の4000万ドルをどのように使えばいいですか。


マネー・ボール 奇跡のチームをつくった男
マイケル・ルイス 中山 宥
ランダムハウス講談社 2004-03-18


by G-Tools

本書は非常におもしろい本である。まあ著者の力量不足で素材を使い切れていない、構成が下手等の難点はあるが、アスレチックスという素材がそれを補う以上におもしろい。
ただしかし、この本が野球好き向きかといえば難しい。本当に野球というものを好きな方なら、内容に賛成・反対でも楽しめると思うのだが、野球とはビール片手にプロ野球を見て騒ぐもの、野球を通じて精神を磨く、故にバントは絶対だ等々の考え方を持っておられる方は読まない方が無難だろう。

本書はメジャーリーグの球団のひとつであるアスレチックスを書いたものである。アスレチックスは奇妙なチームだ。まず採用する選手が変わっている。他のチームが興味を持たないような選手を獲るのだ。足が遅い。守備が下手だ。弱肩、ロートル、ふとっちょ等々ほかの球団なら獲得リストからまっさきにはずすような選手ばかりを獲る。しかし、その落ちこぼれ選手がみごとに活躍するのだ。
第二にアスレチックスは小技を使わない。バント、盗塁、エンドラン等々のベンチワークは御法度なのだ。攻撃は四球で塁を埋め、長打で返すという戦法だ。日本の野球指導者が一番嫌う戦術だが、これでアスレチックスは毎回プレーオフに進出している。

なぜこんなチーム運営をするのか。まず資金力の問題がある。プレーオフの常連ヤンキースの資金力と比べれば、アスレチックスの資金力はないも同然だ。ヤンキースとは違うアプローチで選手を集めなければ、資金力で上回るチームに勝てるはずがない。
そこでアスレチックスがとったのは、野球に統計学の手法を採りいれることだ。過去のメジャーの試合のデータを調べ、エラー数や打点などのあいまいなデータを取捨選択し、本当に勝利に関係しているポイントはどこかを探りだした。打線において重要なのは出塁率と長打率である。勝利のためには守備力より打撃力のほうが重要であり、守備力は5%の重要性しか持っていないとの結論に達した。

ちなみにエラー数や打点がなぜあいまいな数字なのかは、エラーと判定されるかどうかが主観に頼っているからだ。守備範囲の広い選手ががんばってボールに追いついてこぼした場合エラー、守備範囲がせまい選手が同じボールをワンバンドで安全にキャッチした場合ヒット。これを同じ数字と判定することが、公平で確実なデータになるだろうか。打点については、それはたまたまヒットを打ったときにランナーがいたからであり、本来ランナーも打点を生み出すのに重要なはずなのだ。だが打点という数字はそんなことを考慮に入れていない。

だから、アスレチックスは他のチームが見向きもしないロートルや鈍足、ふとっちょでも出塁率がすばらしければ獲得するのである。
バント等の小技についてもそうだ。データを調べてみるとバントやエンドラン、盗塁はやってもやらなくても得点力にはあまり関係なく、むしろアウトカウントを相手にくれてやるだけの、無駄なことなのだ。アスレチックスのフロントはバント等のベンチワークを監督のいいわけ以外の何者でもないと完全に禁止した。もしやるのなら100%成功する場面でなければやってはいけない。失敗でもしたらワンマンGMビリー・ビーンの逆鱗に触れてトレード対象になってしまうのだ。

日本の高校野球経験者には、まずもって受け入れがたい戦略だろう。野球のロマンを感じられない試合なんて、走攻守すべてに優れた選手がみせる試合こそが野球だ、と憤慨する向きもあるかもしれない。しかしアスレチックスがこの経営戦略で優秀な成績を残しているのは事実だ。
そう経営戦略と書いた。これは経営なのだ。
フロントの仕事は野球のロマンを語ることではない。勝てるチームを作るため戦略を持ち、勝つための選手を集め、勝つための指示を現場に与える。そう一般の企業なら経営陣がやるあたりまえの仕事だ。ただ野球だけがその『あたりまえ』が『あたりまえ』ではなかっただけだ。

今回のライブドアの近鉄買収騒ぎのさいに、ある球団幹部から売名行為との批判が出た。これを聞いて爆笑してしまった人は多かったろう。今プロ野球球団を所有している企業で売名目的でないところがあるのだろうか。一部のチームをのぞいて企業名が入っているプロ野球球団名。ユニフォームに宣伝効果を狙ってでかでかと書いてある企業名。これが売名行為以外の何者なのだろうか。
球団経営者の意識は、これらは売名行為ではなく野球という文化を守るためにやっているんだ、くらいのものかもしれない。そのためには少々企業の利益を考えても当然じゃないか、必要経費だ、という思いなのかもしれない。だが、本当に野球という文化を守っているつもりなら、ファンが悲しむに決まっている球団合併などをなぜ考えるのか。結局のところプロ野球経営は、大企業の社長の優雅な趣味のひとつでしかない。だからITなんて新参者がこの高級サロンに入ってくることがおもしろくないのだ。

アスレチックのフロントが野球のロマンなんて微塵も信じないビジネスマンに変わったところで、ファンがどれだけ悲しんだのだろうか。常勝チームになることで、球場に人はあふれ、球団売却も合併の話もない。経営者は経営を、選手は現場で野球を、ファンは地元の球場でプロ野球を楽しむ。三者はただ自らがあたりまえのことをしただけなのだ。そこには野球のロマンなどは作用していない。あたりまえのことを、あたりまえのようにしただけだ。だけど、すべては順調にいっている。

日本の野球界のニュースをみるごとに、あたりまえのことをあたりまえにやるという難しさをあらてめて実感してしまう今日このごろであった。
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