現実不適合者
怪奇幻想作家としての地位を固めた感のある倉阪鬼一郎のエッセイみたいな本。彼のサラリーマン時代のことを書いてある。怪奇幻想作家VS会社というモノの戦いは圧巻。
これは、まったく向いていない会社勤めを十一年間続けた、ある現実不適応者の記録である。
本書は、日本で唯一の怪奇幻想作家(ホラー作家ではない)である倉阪鬼一郎が、印刷会社でサラリーマンなるものをしていた日々を綴ったものである。
なにしろ日本で唯一の怪奇幻想作家であるから「会社」なんてものに馴染むわけがない。
だが、会社帰りの飲ミニケーション、昇給=昇級の誘惑などという「会社世間」の重圧は重い。
それに一度でも甘い顔を見せたらどれだけのうっとうしい事態になるか。
だから怪奇幻想作家はあの手この手で「会社世間」と闘い、身をかわす。
本書が安心して読めるのは、著者である怪奇幻想作家が、自分が正しくて「会社世間」が間違っているから会社世間と闘っているのではない、という点だ。
この点を間違えると、ただたんに飲み屋で上司がバカだとグチるサラリーマンと変わりない。自分は「会社世間」に絡めとられていないと思っているのだが、もうすでにその行為が「会社世間」そのものである。
怪奇幻想作家が闘うのは、自分がイヤだからである。それだけだ。
なぜイヤなのかと聞かれれば、怪奇幻想作家だから、としか答えるしかない。
だから、「会社世間」の人たちを見る目線もどこかやさしい。(というかユーモラス?)
時には「会社世間」側に感情移入してしまうこともあるかもしれない。と油断しているといつの間にか「会社世間」のまっただなかにいる、という事態になるかもしれんが。
まあ、あっち側に違和感なくいられる方が幸せなのかも・・・
今も「会社世間」の重圧に苦しんでいる人はぜひこの本を手本にすべき。
ただし、変わり者として周囲から白い目で見られるという栄誉に耐えられる人のみ
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