いまさらだけど宮部みゆきの【理由】を読んだ。
これは、超高層マンションで起こった凄惨な殺人事件をノンフィクションの手法で追いかけていく形の作品になっている。
ここでは従来のミステリのように、作品の核である事件そのものを扱っているわけではない。むしろ、事件の周囲に重点をおいている。事件に関わった者たちへのインタビュー形式で話は進み、周囲からみた風景として核である事件がだんだんと理解できる仕掛けになっている。
作中でも語られているが、事件は当事者だけではなく、その周囲へも影響を与えてしまうこと。これが作家宮部みゆきの視点なのだ。
事件が起こった部屋の隣に住む家族や、事件が起こったマンションの管理人家族、事件の直接の当事者ではないけれど事件を引き起こす要因となった家族の事情、また重要参考人とされて逃げ回っていた男と関わってしまった家族など、旧来のミステリ(ミステリだけのことではないが)では、ただ一証言を得るための役柄でしかなかった周囲が事細かにリアリティを持って書き込まれている。
“事件”はそれだけで完結するものではなく、“事件”とその周囲に多大な影響を及ぼしながら拡大していくものなのだ。
この視点は、その後の大作【模倣犯】につながっていくことになる。
また、この作品のもうひとつのテーマは“家族”だ。
事件の周囲を丹念に書くことで、周囲に存在する多種多様な家族を書いている。
結末で、殺された“家族”の正体がわかったとき、読者は必ず家族とは何だろうかと考えるだろう。その時浮かんでくるのは、事件の周辺に存在した在り方も関わり方もそれぞれに違う家族のことだ。宮部みゆきは、多くの“家族”を書くことで、読者に家族について深く考えさせ、そして容易には答えを出させないようにしている。
良書であった。