弥次喜多を書いたのでついでに去年観た映画をつらつらと。
まず注意。
宣伝ではトム・クルーズが主演っぽく大々的に流してたが、物語としての主人公はジェイミー・フォックスだ。
まあ、どうでもいいことだけど。
地下鉄で人が死んでいても誰も気がつかない街ロサンゼルス。そのロスで12年間タクシー運転手として過ごしてきたマックス(ジェイミー・フォックス)。今日も昨日と同じ平凡すぎる一日のはずだった。そう、乗客の女性検事アニー(ジェイダ・ビンケット・スミス)と心をわずかばかり通わすことができたことを、良い思い出にベットに入って終わるはずの一日だったのだ。
あの客を乗せるまでは。
白髪まじりの銀髪で無精ひげを生やした乗客、ヴィンセント(トム・クルーズ)は、マックスが時間どおりに目的地の着くと、多額のチップと引き替えに一晩の専属ドライバーになるよう依頼した。
今の平凡な生活から抜け出すためにマックスがしてたことは、南の島のポストカードを眺めるバカンスか、高級車専用タクシー会社を起業することを夢見ているだけだった。
夢を見続けるためにマックスは、ヴィンセントの申し出を受けてしまう。
マックスとヴィンセントの長い夜が始まった。
トム・クルーズが演じるのは、孤独な、それゆえに孤高な殺し屋ヴィンセント。
そのヴィンセントの正体を知ってしまったマックスは脅迫され、殺し屋の仕事を手伝わされることになる。
タクシーの中という限られた空間の中で、仕事を手伝うように強要する殺し屋と、脅されているタクシー運転手という図で話は進む。こういった制限された空間での劇というのは、すごい好きだ。
脅迫者と脅迫される者という関係のはずなのに、お互いに何か通ずるものを感じとったのか、二人の話は深くなる。ヴィンセントは入院しているマックスの母にも二人で会いに行き、マックスの生き方考え方心の底を暴いていく。おまえは自分で自分を欺いているだけだと。おまえは夢にむかって進んでなんかいない、夢を見ているふりをして現実を見ないようにしているだけだと。
またヴィンセントの方も、普段は誰にも語らないであろう自分の親の話をマックスにする。それがどこまで本当かはわからないにしても。
自分は孤独なのだ、とあらためて気づくのは、自分と同じく孤独な男に出会ったときなのかもしれない。合わせ鏡を見るように、相手を知れば知るほど自分の中の虚無に気づいてしまう。
お互いがお互いのことを知り、それが自分の孤独さを気づかせてしまうという状況を理解したとき、二人はコヨーテと出会う。夜の暗闇から一匹で進み出て、また夜の暗闇へと一匹で戻っていくコヨーテ。
二人は無言でコヨーテを見続けてしまうのだった。
孤独な街ロサンゼルスで孤独な男が二人出会った。つまりはそういう話なのだと、私は理解している。
そういう話が好きな方、孤独でバカな男を理解してあげるという方には、おすすめかもしれない作品。